2024年8月、聖武天皇御即位1300年を記念するこの素晴らしい年に、私は念願かなって奈良に転居いたしました。Chrononautとは「時間の旅人」のような意味です。現代に生き、奈良時間を旅することを楽しむ皆さんと繋がりたい、という想いでChrononaut Naraというサイトを立ち上げました。奈良、そして奈良時代について私もまだ知らないことばかりです。奈良時代を再発見していく時間旅行を一緒に楽しんでいただきたい、そして奈良時代の魅力をより多くの方に知っていただけたら、と思っています。
人生において一度に選べる選択肢はひとつしかないような錯覚を持って生きていた時間が長かったように思いますが、図らずもコロナでオンラインでできることが増え、自分の好きな場所に住みながら他のエリアで仕事をする、という可能性が広がりました。今は自分がなりたいものに同時になりたいだけなればいいのかな、と思っています。そしてそのどれもが同じくらい自分にとって大切なものになりえると思っています。奈良に転居する、ということは自分にとって驚くほどワクワクする大きな人生の新しいコミットメントです。
明治生まれだった私の祖父は会社から戻ると着物に着替え、正座して浮世絵、美術本、写真集などを眺めるのが日課でした。小学生の私はいつも隣に座って祖父の見ているものを一緒に見ていました。祖父が浮世絵などについてあれこれ説明してくれる時もあり、私にとってそれはとても楽しみな時間でした。
ある時、入江泰吉さんの大きな大和路の写真集を見ていた祖父がページをめくると、春日大社の朱色の軒先に下がる灯篭に藤の花が重なるなんとも艶やかな一枚が視界一杯に広がりました。私は息をのみ、「こんな綺麗なところに行ってみたい!」と言ったのが奈良というものが自分の意識に刻まれた最初だったように思います。その後中学生の時に祖父に連れられて明日香から奈良市内にかけてゆっくりと旅をして以来、奈良がさらに好きになり、あれこれ古代史関連の本を読みふけり、東京から来ては京都を通過して奈良に行く、というちょっと変わった旅行者だったと思います。
そして好きが高じてこの度奈良に拠点を移しました。コロナ禍に残りの人生をどこで過ごしたいだろうか、と考えた時にやはり奈良に住みたいという気持ちが強く、人生の大半を海外と東京で過ごした私には大きな決断でしたが、これから奈良で過ごす時間を大切に楽しんでいきたいと思っています。夫が偶然にも高校時代まで奈良で過ごした経験があったということもとても心強いことでした。今頃浅草のお墓の中で祖父がびっくりしているに違いないと思うと「くすっ」となります。まさか祖父は自分がめくった写真集の1ページがきっかけで孫が奈良に移住してしまうなんて、思ってもみなかったことでしょう。
人が「奈良が好き」という時にはいろいろな意味があるように思います。「奈良という土地や自然が好き」「奈良にある寺社仏閣や仏様が好き」「正倉院展が毎年楽しみ」「奈良時代の天皇や歌人などの物語に惹かれる」「古事記、日本書紀、風土記などを読むのが好き」など。どれも汲めども尽きせぬものばかりで、一生をかけても知りえぬことばかりです。
私は奈良という物理的なエリアを外して日本全体にとっての「奈良時代(とそれに先行する時代)」がどのようなものだったのか、ということにとても興味をひかれています。九州や出雲はもちろん、北関東や東北まで地方豪族の覇権が乱立していた当時の日本を「戦い、律令、神話、宗教、交易、文化、そして言語」などを通してまとめていこうとする大和王権と、その大和王権側の物語に取り込まれていく地方側から見たドラマ。「外国から学びながら日本という国を立派にしていこう」と命がけで真面目に国づくりをしてきた人たちの熱気、向上心、希望、苦悩、挫折、をもっと知りたい、そしてまたそれを多くの方と共有したい、と思っています。
私は現在、ビジネスパーソンへの英語指導を仕事としているのですが、英語で日本について話す練習を必ずトレーニングに入れています。私が学生時代、そして駐在員時代に海外に住んでいた時、日本や日本の歴史について尋ねられることがとても多く(そして相手は往々にして自分よりも日本について良く知っていたりします)、その度に「日本人なのに日本の事を知らない」ということがコンプレックスでした。相手の質問に答えられない自分を恥ずかしく感じていました。誰のためでもなく、自分のルーツであるこの国の事をもっと知りたいと思っています。
本サイトは奈良時代(またそれに先立つ)創建の寺社仏閣、古墳、遺跡、などを中心に神話や風土記の世界をからめてご紹介する一般人の作ったサイトです。また、奈良生活を始めてみての日々の記録や感想、奈良の好きなものなどもご紹介していきます。
実際に私が足を運んだ場所についてのみ、また基本的には自分が撮った写真のみで記事を書いておりますので現時点で情報や選択肢が偏っているところも多々あるかと思いますがコンテンツは順次増えていく予定です。今まで訪れた場所について書き溜めていたものがたくさんあるのですが、バイリンガルに整えてのリリースなので週に2−3本のアップかもしれません。時々覗きに来ていただければ記事は増えていると思います。
奈良が好きなひとと繋がりたい、奈良の良さをもっともっと伝えたい、と思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
2024年 8月吉日