11/12-18まで依水園隣の吉城園主棟で開催中の塗師屋樽井展へ足を運んだ。秋晴れの美しい日で奈良公園も少し紅葉が始まっている。最近できたハイエンドホテル紫翠と依水園の間に展示会場はあった。門をくぐると案内の方がいて、お祝いの胡蝶蘭や花が並ぶ玄関に案内してくれた。そこにある靴の多さにまず驚く。外は静かだが、中は大盛況なのだ。
廊下を進み奥に入ると、庭園に面した大きな座敷いっぱいに敷かれた毛氈の上に螺鈿や朱漆で彩られた華やかで重厚な作品がずらっと並ぶ。その素晴らしさにため息が出た。座敷のガラス越しには庭園の色づいた木々の葉も見え、作品たちをより引き立ててくれているようだった。まず、床の間を拝見し、そしてその脇にあった春日大社の素晴らしいお道具を見せていただいた。鮮やかな朱の色と蒔絵に目はくぎ付けである。
樽井家は南都で代々春日大社を始めとする伝統ある自社のお道具の数々を作られている。今回の展示品たちは普段はなかなか目にする機会も少ない貴重なものだ。コロナ禍の時間の流れが緩やかだった間に当代樽井禧酔氏と息子さんの宏幸さんが集中して作られたという大作が所狭しと並んでいた。寺社の道具に相応しい重厚な塗り物ばかり。漆の厚みが全然違い、手に持つとずっしりと感じる。春日大塗とも呼ばれるそうだ。会場で求めたパンフレットに載っているお二人の略歴を見ただけで奈良の重要な寺社が全て網羅されそうなほど素晴らしい。実用に耐える、100年以上はびくともしなさそうな美しい作品たちは、塗りの雰囲気や文様などからも輪島塗などの薄く繊細な塗り物とは一線を画すものであることが良くわかる。
そして今回は作品を購入することもできたので多くの方が手に取って見ていた。技巧を凝らした漆作品なのだから当然それなりの価格はするが、東京に持って行ったら倍以上はするのではないかと思うほど良心的な値付けだ。
私も選びに選んで螺鈿の香合と朱盆を求めた。このような機会でもなければ求められなかっただろうと思うとこれもご縁である。香合は来年の風炉の時期にデビューさせよう。