私は仏像に関しては全く素人で、ただ美しいものを美しいと感じ、多くの人々の祈りのこもったお姿に感銘を受け手を合わせるのみで、難しいことは何も分からない。でもその素晴らしさを多くの人と共有したい。今回は不思議にもそんな私の周りに偶然いてくださる三体の美しい大日如来坐像について3本の記事に分けて書こうと思う。その三体の仏様はそれぞれ半蔵門ミュージアム(東京)、忍辱山円成寺(奈良)、そして浄瑠璃寺(京都)にいらっしゃる。どの像も運慶または慶派仏師の作と認定、または考えられているもので、この三体にはひとつの貫かれている美意識があるように感じられてならない。
一体目は東京都千代田区半蔵門にある半蔵門ミュージアムの大日如来様だ。まだ私が奈良に転居する何年も前、偶然に出会った仏様だ。こちらのミュージアムは私の会社のオフィスから徒歩2分ほどの場所にあり、半蔵門駅直結という交通至便な場所にある。小規模ながら施設も大変新しく整っていて、なんとびっくり、入場無料なのである。ミュージアムをお持ちの真如苑さん太っ腹、である。魅力的な展示をいつもされているのでいつもチラチラとポスターを見ながら前を通り過ぎていたが、ある日ふと訪ねてみた。
スタッフの皆さんはとても親切で礼儀正しく、温かい応対に訪れるたびにホッとする。初めて訪ねた時、教えていただいた通りに地下の展示室にエレベーターで降りると、そこに待っていたのは大都会の真ん中とは思えないほど静謐な空間だった。照明を絞った回廊に古いインドの仏教彫刻などが並ぶその先、通路の正面奥に神々しいばかりの大日如来様が座っていらっしゃる。遠くから見ても近づいて目を凝らしても美しく、心奪われる素晴らしさだ。鎌倉時代を代表するあの運慶作と考えられる大日如来像を無料で見られる場所はここしかないのではないだろうか。
2004年に仏像研究者の山本勉先生が「新出の大日如来像と運慶」という論文を発表され、この大日如来像が運慶作品である可能性を示唆された。現在では重要文化財の指定を受けている。X線写真から像内に多くの納入品があることが確認され、その納入品のレプリカも一緒にミュージアムに展示されていて大変興味深い。初めて見るものばかりだ。この納入品の中心には「心月輪(しんがちりん)」というものがあり、たいへん重要な意味があるということを後日ミュージアム主催の清泉女子大学佐々木守俊先生の講演会で知るのだが、ここで説明するとそれだけで記事が終わってしまうので、別の記事で講演の内容をサマリーできればと思う。
私はこの大日如来様の全てが好き。美しいその御髪と細かく彫刻された毛筋にいつも長い間見とれてしまう。かつては冠や多くの装飾品を身に着けていらしたと想像するが、それが全て失われた今もあるがままで美しい。これを彫った人が運慶かそうでないかは関係なく、優れた仏師というものはどれほどの信仰心を持ってその手を動かし、その心の中の像をこの世に結ぶのだろうか、と想像するだけでめくるめく空想の世界にのめり込んでしまう。
大日如来様を拝み、その美しさに心癒された後はエレベーターで3階に上がる。ここには落ち着いたカフェスペースとコンパクトながら欲しいものたくさんのミュージアムショップがある。このミュージアムショップで今までかなり散財している私だが、山本勉先生を始め歴代の半蔵門ミュージアム館長のご著書を買い込んでは100円か150円程度で買えるセルフのコーヒーを持ってソファ席に座り、買ったばかりの本を読む。なんと小さな豆菓子まで付けてくださる。真如苑さん太っ腹、である。建物内の採光が独特の柔らかい雰囲気を作り上げていて、まさに至福の時間だ。
そのようなわけで半蔵門ミュージアムはまだ行ったことがない、という方がいらしたら全力でお薦めしたいのである。