岩船寺  南山城の花の箱庭

2023年の浄瑠璃寺を中心に計画した南山城の旅以来1年ぶりに訪れた。昨年はここから南山城に点在する寺々をハイキングで訪れようという年配者の団体がいて、なるほど浄瑠璃寺や石仏、摩崖仏など、良い季節であればここからのウオーキングは楽しそうだと思った。その時は次は紫陽花の季節に、と思っていたのに今回もまた初秋のあまり花の無い時期となった。訪ねた時にはヨーロッパ人観光客の団体客がいてフランス人のガイドが境内を説明していた。「おお、岩船寺にまでインバウンドツアーが!」と隔世の感だ。ディープなところに真っ先にやってくるのはいつもヨーロッパ人だなあ、と改めて彼らの貪欲さに感心する。タイに住んでいたころ、真っ先にプーケットやピピ島、サムイ島などを見つけてやって来ていたのもドイツ人を筆頭にヨーロッパ人だったのを思い出した。

門前の通りには野菜や唐辛子などを売っている店がいくつか出ていてほのぼのとした雰囲気は変わらない。南山城はほっと心落ち着くお寺が多い。

清々しい空気が流れる境内

由緒

この木津川周辺は古くから奈良、京都、近江を結ぶ交通の要衝で、聖武天皇が都を一時平城京から南山城の恭仁京に移したことなどからこの辺りは興福寺や東大寺の僧の隠遁の場でもあったようだ。また下って室町時代には山岳修行も盛んであったらしいことが残されている記録や像などから分かっている。岩船寺には岩船寺縁起というものが残されており、それによると天平元年(729年)に聖武天皇が大和国鳴川の善根寺に居た行基に阿弥陀堂を建立させたのが始まりと書かれているが、いろいろ後世に手が加えられていることもあり、正確なところは良くわかっていない。しかし、現存する丈六仏、阿弥陀如来坐像には天慶九年(946年)の銘文が残されており、当時八尺もの大きさの本尊を祀る立派な寺であったことが想像される。鎌倉中期に最盛期となるも、承久の乱などで何度も焼失した。寛永年間に徳川家康・秀忠らの寄進によって再建されたようだ。

この辺りについては参拝者がある程度集まるとお寺のご住職が丁寧に説明してくれるのでとても分かりやすい。機会があれば是非お話を伺ってみて欲しい。

そこここに石仏

本堂

石段を登り、拝観受付を済ませて山門をくぐると、玉砂利の白い道の両側を緑が覆い、遠くの木陰に朱の三重塔が見える。午前中に訪れた境内は緑が多く落ち着いた雰囲気で、湿気を含んだ空気をまとってしっとりとした趣だ。数日前までの灼熱地獄が嘘のように涼しい風が吹いてくる。足元にはギボウシがあちこちに咲いている。
少し行くと右手に本堂があるのでこちらで仏様を拝む。御堂の落ち着いた雰囲気の中、平安初期の立派な阿弥陀如来坐像が四天王を従えてどっしりと座っていらっしゃる。とても優しく包容力のあるお姿にしばし見とれる。阿弥陀様を拝んだ後は本堂内をぐるりと時計回りに回って普賢菩薩騎象像を始め様々な寺宝の展示が見ることができる。

境内

緑濃く、瑞々しい境内の中心には「阿字池」があり、本堂からそれを反時計回りに回って少し登ったところに室町時代の三重塔がある。浄瑠璃寺の三重塔にとても良く似ている。更に反時計回りに回っていくと十三重石塔(重要文化財)、石室不動明王立像(重要文化財)、地蔵菩薩、五輪石塔(重要文化財)などの石仏、石塔が並んでいて見ごたえがある。この南山城の辺りは摩崖仏が多く、石工が掘ったものや修行僧が掘ったものがたくさんあるようだ。こちらの鎌倉時代の五輪塔は私が今まで見た中で一番大きく立派なもののひとつだった。東大寺別当平智僧都の墓と伝えられている。

三重塔、花、池、とフォトジェニック

本尊

阿弥陀如来坐像(重要文化財)
平安時代十世紀を代表する貴重な丈六仏。像内に天慶九年(946)のものと思われる墨書きが残されている。定印を結ぶ阿弥陀象の独尊の古例としても重要。

その他寺宝

普賢菩薩騎象像(重要文化財)11世紀?
この象に乗った普賢菩薩様は辰年巳年の護り神でいらっしゃるようだ。今年は辰年なので是非拝みたいと思ったが、今は向こう2年間の修復作業のため預けられているようで、お写真だけで拝見した。

三重塔(重要文化財)室町時代
庭の小高い丘に登ると三重塔の上部まで良く見える。青空と緑と朱色の塔のコントラストが美しい。

十三重石塔(重要文化財)室町時代

五輪石塔(重要文化財)鎌倉時代

石室不動明王(重要文化財)鎌倉時代

とても立派な五輪塔

春:梅、山茱萸、桜など

夏:紫陽花、スイレン、桔梗

秋:紅葉

紫陽花の時期は特に見事らしいので次回はその季節に足を運びたい。

おまけ

山門を出てすぐ左側の食堂兼売店はとても感じの良い場所だ。秋に訪れたので山菜おこわと茸汁を食べたが、美味しかった。他にも甘いものなども売っている。特にこの食堂で手作りしているという一味唐辛子がとても香りがよく美味だったので売っていたら分けてほしかったが、売り物ではなく自分の家庭と食堂の分だけ作っているということだった。秋の週末に岩船寺にいくならばこちらに寄ってみることをお勧めする。

なんだかいつも可愛い
山菜おこわと茸汁のセットで700円だったかな。美味しかった。

アクセス

時間の効率などを考えると車で行くのが一番良いのは間違いなさそうだが、岩船寺は寺を出てすぐの道にバス停がある。「木津川古寺巡礼バス」という名前で季節運行のバスのようなのでいつも頼りになるというわけではないだろうが、それでもJR奈良駅や近鉄奈良駅から一本で行けるのは便利である。

―奈良交通バス(お茶の京都 木津川古寺巡礼バス)で約30分

ちなみに2023年度は7月~10月初めの土日祝日、10月~11月の土日祝日の運行だったが、2024年の秋の運行は確認できない。

この記事を書いた人

Chrononaut M

慶應義塾大学文学部史学科卒、コロンビア大学ティーチャーズカレッジ英語教授法(TESOL) 修士。Q-Leap株式会社 取締役
2024年に東京から奈良に転居。

外資2社に計10年ほど勤務。その間Chicago、NY、Geneveに計4年駐在。結婚と子育てで一旦仕事を離れ、10年間の専業主婦時代を過ごす。3人の子育て中に再度社会に戻るために本格的に英語をやり直し、2011年にコロンビア大学ティーチャーズカレッジでTESOLを取得、

2014年にビジネス英語研修会社 Q-Leap を愛場吉子と共同設立。企業のエクゼクティブ担当として数多くのプライベートレッスンを現在も手がけている。Q-Leapは今年設立10年を迎えた。「明日の日本代表に真の英語力を!」がスローガン。

コロナ禍にほぼ全てのレッスンがリモートで可能になり、残りの人生は好きなところに住んで好きな仕事をすることに。2024年夏に奈良に転居し、自分の記録として、また多くの人に奈良の魅力を知ってもらいたくChrononaut Naraを立ち上げる。

現在は奈良と東京の2拠点で活動中。奈良8割、東京2割。
推しは、藤原不比等と聖武天皇と早良親王。。。書いているときりがない。