2024年は夏に雨が少なく、かつ猛暑だったため、小さめの広葉樹は水不足で葉先がチリチリと丸まってしまったり、茶色く枯れてきたりと11月半ば過ぎは「今年の紅葉はどうなることやら」と思っていたが、11月の末頃から色づきだし、降雨量も少し増え、昼間温かく夜寒い日が続いた12月初旬は毎日ぐんぐんと色が変わっていった。あたかも木々が「冬になる前に自分の一番美しい姿を見せなくては」と急いでようで、12月半ばにはその色はピークに達した。
自宅からほど近い東大寺大仏殿の裏を通ることが多いので、定点観測とまではいかなくともかなり定期的に同じ木々を観察した秋だったように思う。奈良には紅葉の名所はたくさんあり、どこもとても素敵なのだが、「転害門~大仏池~大仏殿裏~大湯屋~手向山八幡宮~若草山~水谷茶屋」のルートは東大寺南大門側の喧騒から隔絶された静けさがある上に紅葉も見事で、是非歩いていただきたい道だ。
スタート地点となる転害門は東大寺で唯一残る創建当時の門で、東大寺の最も北側(京都より)にある門だ。ここを入った瞬間いつも少しだけタイムスリップする感覚がある。

この辺りの秋は転害門を入ったところの鼓坂(つざか)小学校にある巨大な数本の広葉樹から始まる。高さ20メートル近くのこの木が11月半ば頃に黄色く染まってくると秋の始まりである。この鼓坂小学校はなんと明石家さんまさんの母校だそう。150年の歴史がある素敵な小学校だ。児童数が減少していて、現在県と市が他の小学校との併合を計画している。ここでは鹿のグループが食事をしていることが多い。奈良公園一帯がとっても綺麗なのは鹿さんという素晴らしいお掃除屋さんのおかげなのだ。

小学校の前を通り過ぎて大仏池に向かって鼓坂を上るといきなり視界が開けて大仏池とその周りの紅葉が見られる。ここは赤も黄色も豊かで、視界の先には大仏殿の屋根も見える素晴らしい場所だ。鹿のヌタ場でもあるので、ここでもたくさんの鹿と会える。


大仏池を左に見ながら大仏殿の裏を通り、二月堂方面に真っ直ぐ上がって行く。大仏殿の裏で手を合わせている方を見かける度に素敵だなあ、と思う。自分も真似する。早朝でも散歩をしている方がちらほら。

大仏池を過ぎ、左に見える現在発掘中の僧房跡の巨大な礎石などを眺めながら進むと、二月堂と大湯屋に分かれる二股に来るので、そこを右(大湯屋のほう)に曲がる。11月末頃であれば正面に枝垂れた銀杏の大木が現れる。この木が黄色く色づく様子がまた素晴らしい。12月初旬になると銀杏は落葉し始め、次は大湯屋近くに流れる小川の上の紅葉が色づいてくる。ここには写真愛好家の方が小川に水を飲みに来ている鹿と紅葉の写真を撮りによく来ているようだ。


そのまま道なりに緩やかに上がって行くと二月堂の表側の参道に並ぶ茶店の間を横切って手向山八幡様の階段下に出る。手向山八幡様の前には多くの広葉樹があり、階段の下から眺めても上から見下ろしても綺麗な場所だ。八幡様の鮮やかな朱色の門が景色に華やぎを添える。



八幡様を過ぎると若草山の山麓へとつながる短い道がある。この季節は紅葉のトンネルを歩いているような気持ちになる。
そのまま若草山の山麓へ。ここまで樹木に覆われた森の中を歩いてきたので、視界がいきなり開ける。大量の鹿も、、、この辺りは古いお土産物屋さんなどが多いのだが、最近はお洒落なインドファブリックのお店CALICOさんや若い人が営む眺めの良いカフェなど素敵なお店が増えてきた。

若草山も下草が黄色くなり、もう今週初めから1月の山焼きの準備のために閉山している。若草山の麓を通り過ぎて進むとこのエリアで最も紅葉が遅く始まると言われている水谷茶屋にたどり着く。徒歩であれば山麓の道の端にある階段を降りれば直接水谷茶屋前に、自転車だと車道を迂回して来る。この車道沿いの紅葉も素晴らしく徒歩でもこちらをお勧めする。

水谷茶屋にはアマチュアカメラマンが鹿と茅葺屋根と紅葉のセットを撮影しようと早朝から集まってくるようだ。実際、日中は観光客で混みすぎていて撮影どころではない感じ。この近くに美味しいと評判のキッシュのお店レ・カーセさんがあるのだが、開いている日や時間が限られていてまだ行けていない。

転害門から入って水谷茶屋までのんびり歩いて30~40分の散歩道。適度にアップダウンもあり、良い季節に歩くにはとても良いルートなので、機会があれば是非歩いてみて欲しい。