夕食の後にちょっと運動も兼ねて転害門から入って二月堂まで散歩する。大仏殿の裏を通り、二月堂に上がるのは距離も勾配もちょうどいい感じだ。今日は台風の影響もあまりなく、夕方から涼しい風が吹いていたので気持ちよく歩いてきた。ところどころ草を食んでいたり、角を木の幹にこすりつけていたりする鹿に遭遇しつつ、二月堂へ。
昼間は観光客と鹿でごった返している境内も、夜の8時も過ぎれはほとんど人影もなくしんと静まり返って、夏の終わりなら虫の声と水の流れる音だけしか聞こえない。ところどころに街灯はあるものの、一歩踏み込めば漆黒の闇と隣り合わせ。街の隅々まで明るい現代の都会では味わえない陰影の豊かさがまだここには残っている。時間と人とに磨かれた空間だからこそこの闇がさらに美しいものとなっていると思う。
二月堂へは24時間上がることができる。ここからは奈良の街と生駒山が綺麗に見えて、昼でも夜でも大好きな場所。かなり大きくなった?代めの良弁杉が空に向かって真っすぐ伸びているのも気持ちよい。
奈良の素晴らしさはスカイラインが昔のままであること。余計な近代的なビルなどなく、視界を邪魔するものがない。空を見上げれば空しかなく、遠くを見ても自然の地形が優勢なので心からほっとする。
目の前の風景に癒されながら、かつて娘の小学校の校庭の裏にニョッキリと六本木ヒルズが立ち上がった時の何とも言えない残念な感じを思い出した。無機質で巨大なダンゴムシがいきなり立ち上がったようなビル。そこには調和は無く、自己主張があるのみという印象だった。1000年経ったら廃墟としてすら存在しないかもしれない。
ここでは1000年の時間に感謝し、夏は冬を想い、冬は夏を想う。そして春と秋はいつでも待ち遠しい。